運転を哲学する男 小林眞のコラム 40 立哨活動で事故は減るのか?

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~ 立哨活動で事故は減るのか? ~

 

その昔、死亡事故ゼロを目指す日に交通事故は減少しているのかという調査が行われた。その結果、残念ながら減少傾向は見いだせなかった。

その結果に失望していた交通幹部を見て、私は不思議に思った。そもそも個々の交通事故防止対策の効果とは、具体的に数値評価できるものではないと考えていたからだ。

ゼロの日に県下全域で官民挙げて立哨活動を行えば、警察幹部や参加団体の方々はそれなりの効果を期待する。しかし、それが何件の事故防止に効果を発揮したのかなど、算出する術はない。

しかし、効果が算出されないから無駄なのではない。そこに価値を認めるか否かである。

 

フランスの哲学者、ジャン=ポール・サルトルは、1964年、言葉について語る中で、「飢えて死ぬ子供の前で文学は有効か?」と問いかけた。

この問いかけに比べれば、私たちの行うべきは単純明快である。

 

死亡事故ゼロの日に行われる官民挙げた交通事故防止活動とは、具体的な減少効果が検証できなくても、安全であることに価値を認め合い、互いに譲り合う安全な交通環境を築くための基本的な活動である。

そもそも、交通安全活動の価値とは、それで交通事故が何件減少したのかという件数評価ではない。

その活動に参加した人たちが、交通安全を呼びかける活動を通じて、事故を起こさない安全運転を心がけようと思うこと、それだけでも価値がある。そして、その安全意識を積み重ねることによって、いつか誰かの交通事故を防ぐことができる。

 

それでは不足だと嘆くのではなく、それが交通安全活動の価値なのだと誇りに思うべきである。その価値を信じて続けることこそが大切なことなのだ。

そこに価値が存在するか否か、その価値判断を行う根拠とは、私たち自身の人格と識見である。

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