メルマガコラム 41
~ 交通死亡事故件数 ~
国・県、そして警察は死亡事故件数を発表し、前年比プラスマイナスを評価する。
私は現職当時、その考え方が嫌だった。亡くなられた人の数を数え、増えた減ったと騒ぐその考え方が嫌だった。
交通死亡事故の件数を確認することは、その対策を講じるためには必要である。しかし、その増減に一喜一憂する姿は正しくない。
家族を交通事故で亡くされたご家族の前で、「本年は交通死亡事故が○件減少してよかったです」などと説明する無礼な警察官はいない。ならば、その議論を警察本部でも行うべきではない。
警察組織とは、誰の前でも胸を張って説明できる意見を表明すべきであり、誰かの前ではできない議論、その考え方とは、そもそも間違っている。
K警察署長当時、逮捕後の被疑者の取り調べが強制的でないこと(任意の供述であること)を確認するため、取調室に録音録画装置が設置された。
幹部会議の席上、私は刑事課長に言った。「取調室の録音録画装置、この署長室にも設置できないか?」
刑事課長は狐につままれたような顔をした。「この署長室で、いったい誰の取り調べをするつもりですか?」
私は説明した。この署長室で皆さんの報告・説明を受ける。署長室の報告・説明・議論とは、誰に聞かれても恥ずかしくない、胸を張って説明できるものでなければならない。
情報公開の対象は文書であるが、私の市民に対する情報公開とは、この場所、署長室の議論そのものだ。できるのであれば、この部屋に録音録画装置を設置し、署内の待合室のモニターで常に放映し、来署した市民に見ていただく。これが私にとっての情報公開だ。
何があったか以上に、そしてどうすべきなのかを私は考える。皆さんは、幹部として、つまらない言い訳をするのではなく、どうすべきかを考えて報告してほしい。私も本気で考える。皆さんと恥ずかしくない議論を重ね、市民の期待・信頼に応える警察活動を進めること、これが私たちの仕事なのだ。
国・県・警察の目標は死亡事故件数の減少なのかもしれないが、私たちが目指すべきは違う。
私たちの目指すべきは、人の命を守ること、体や心を傷付ける交通事故を減らし、ドライバーの人生を守ることだ。私たちが安全運転の価値を認め、安全運転を習慣とすることを通じて、多くの人たちと支え合う、譲り合う安全な交通環境を創ることだ。
その結果として交通事故は半減し、交通死亡事故はゼロになる。